さて、13時半からの特別講演では帝京平成大学ヒューマンケア学部はり灸学科教授の久島達也先生にお越しいただき、ご専門である「鍼灸刺激が免疫系に与える影響」についてお話いただきました。
前半は、鍼灸と免疫の研究の歴史から、生体防御の基本、過敏性腸症候群の代表的メカニズムである脳−腸相関などについて解説していただきました。
後半は、久島先生の研究発表です。うつ傾向のある被験者に暗算負荷をかけ、唾液中のsIgA等を指標に免疫力を測定し、鍼治療群とコントロール群での差を検討したという研究です。前腕の低周波鍼通電刺激で、sIgAの増加、交感神経活動抑制、副交感神経活動向上がみられたとのことでした。
今後の課題として、複雑な生体防御系のなかのどの要素に鍼が影響しているのかを調べたいというお言葉で、発表を締めくくられました。その後も、活発な質疑がありましたが、丁寧にお応えくださりました。ありがとうございました。
特別講演の後は、施設長の宮本俊和先生から、理療科教員養成施設110周年記念行事のご案内をいただきました。
◆シンポジウム 〜理療科教員養成施設の課題と展望〜
日時:10月19日(土)13時から
場所:筑波大学東京キャンパス文京校舎134講義室
◆祝賀会
日時:10月19日(土)18時から
場所:茗渓会館
15時20分からは、OB・OG活動事例報告です。3名の演者に発表していただきました。
まずは、佐藤卓弥先生に「尿失禁に対する運動療法について」をお話しいただきました。
尿失禁の概説に続き、骨盤底筋訓練に代わるアプローチとしての体幹筋トレーニングの効果についての発表していただきました。体幹筋トレーニングは、骨盤底筋周囲の神経ネットワークを改善させる効果が示唆されたようです。今後の展望としては、体幹トレーニングで改善しない患者さんに対する鍼治療の効果を検証できたら、とのことでした。短時間の発表でしたが、これまでに行われた多くの実験、研究のダイジェストを一気呵成にお話いただきました。
続いて、半田美香子先生の発表です。演題は「鍼灸臨床上の手指衛生および鍼を運動療法に加える効果に関して」。ご自身の略歴から始まり、手指衛生に関する研究、鍼と運動療法に関する研究に携わるようになったきっかけについてお話いただきました。
佐藤先生と同じく、これまでの多くの実験、研究のダイジェストをお話いただきました。指サックに関する研究は、他に取り組んでいる方が少ないので大変貴重なデータでした。また、鍼と運動療法の研究では、運動療法単独よりも鍼を合わせて行った方が、WOMAC、身体活動量において改善がみられたとのことでした。このような臨床上の実感を裏付けてくれるデータは心強い限りです。
最後は、矢野健太郎先生の発表です。矢野先生は理療研修生出身。長年、訪問・外来治療に携わりながら、登山者、ウォーカーについての臨床研究や、膝や股関節の専門医学会への参加など、精力的な活動を続け、現在に至っておられます。演題は「訪問看護ステーションに併設した訪問鍼灸部門での活動について」です。
脊柱管狭窄症を併発したパーキンソン病患者さんの間欠破行がリハビリと鍼灸で改善した例をはじめ、重度の変形性股関節症、脳卒中後遺症と肩関節痛についての症例などをお話いただきました。鍼灸とリハビリを合わせて行うことで、それぞれ単独では得られない効果があるようです。半田先生の発表にも一脈通じるものがありますね。臨床家ならではの実地に基づく発表、おおいに参考になりました。
※各発表者の研究内容の詳細については、ぜひ過去の論文等をご参照ください。
以上を持ちまして、全ての発表が終了いたしました。つくし会の方針として「臨床、研究、教育の三分野のテーマをバランスよく取り上げる」というものがあります。今回も各先生のお力で、つくし会らしい演題がそろったのではないでしょうか。ご参加いただいた皆様にとって、多くの学びと気付きがあったことを幹事一同願っています。
次回のイベントは夏季にサマーセミナーを予定しております。詳細が決定次第、お知らせいたします。
文責・堀