今回は同窓生や現役生以外にも、外部の先生方や鍼灸学生の方々にも参加を募りました。当初、満席超過だったものの台風直撃によりあえなく順延となりましたが、満席に近い盛況の中開催できました。
今回は、東京大学医学部附属病院リハビリテーション部鍼灸部門主任の粕谷大智先生に、低周波鍼通電による筋膜フォーカス・リリース実践編というテーマでお話し頂きました。以下、講演内容について概要を記します。
筑波大学理療科教員養成施設(以下養成施設)でも多く用いられている低周波鍼通電療法は、目的とする組織を刺激できるという特徴があるが、刺激できることが売りではなく、その効果について実証すべきである。また、多くの基礎研究や臨床研究が報告されているが、臨床現場と乖離している研究が多いとおっしゃっていました。
新しい低周波鍼通電の活用方法として普段上手に動かせていない深部筋のfasciaを鍼通電刺激することで、
@血流の改善・痛みや痺れの抑制
A筋の滑走性の向上(筋緊張の緩和)
Bパフォーマンス向上、廃用による萎縮の進行防止
があるとおっしゃっていました。
fasciaとは国際的に定義が議論されているが、コラーゲン繊維が豊富でコラーゲン繊維自体に半導体の性質を持っているそうです。半導体は温度が上がると電導性を持つという性質がある。またピエゾ効果(電圧効果)がfasciaに起こるのではないとおっしゃっていました。これはshear stressがかかると電荷が一方向性に並び、導電性を発揮し、fasciaの情報伝達が行われている可能性があるそうです。お風呂に入ると肩こりが楽になる人は導電性が上がっているのでないかとおっしゃっていました。
今後はfascia自体の導電性が改善するか検討する必要があるが、鍼通電がこれらの現象を強制的に引き起こす可能性があり、臨床的効果を証明する助けになるかもしれないとおっしゃっていました。
続いて、肩こりに対しての中斜角筋と肩甲背神経のアプローチと後頭下筋群のアプローチの方法や、低周波鍼通電の効果を検討するため刺激前後の筋緊張を超音波エラストグラフィで確認した映像を見せて頂きました。
中斜角筋は輪状軟骨と同じ高さで胸鎖乳突筋の後縁に位置する。中斜角筋は呼吸補助筋なので思いっきり深呼吸すると収縮を確認できる。肺がんなどの患者さんでは中斜角筋が過緊張を起こしていることが多いので、すぐに確認できるとおっしゃっていました。
肩甲背神経の約80%は中斜角筋を貫いて肩甲挙筋や菱形筋に分布しているので、肩甲間部の強い凝りの方は中斜角筋を緩めてあげると肩甲間部の凝りも軽減するとのことでした。また中斜角筋に2〜3壮の台座灸も有効だとおっしゃっていました。
頚部の深層筋である後頭下筋群の過緊張により肩こり、頭痛、めまい、耳鳴り、腰痛など誘発する可能性があるとおっしゃっていました。後頭下筋群は、
@目を使う時、頭部の動きをコントロールする
A筋群の下には後頭部、頚部に関係する神経が通っており、目の神経とつながっている。
B後頭下筋群は姿勢と深く関係し眼精疲労や頭痛、腰痛の原因となる。
C体性感覚線維が介在する筋紡錘が豊富で三叉神経の第一枝である眼神経と脊髄内でつながっている
とおっしゃっていました。
後頭下筋群の大後頭直筋のアプローチ方法は、乳様突起から2横指ほど後頭部に移動したところで頚部を軽度伸展させ表層筋を緩めて触診をする。確認方法として目線を上下に動かしてもらうと指の奥で緊張を感じる。刺入深度は約2〜2.5cmでひびきを確認する。
後頭下筋群の下頭斜筋のアプローチ方法は指を第1頚椎横突起の後縁に当てて、頚部を軽度伸展させ表層筋を緩めた状態で触診側に目を向かせる動作を繰り返すと緊張を感じる。刺入深度は約2〜2.5cmでひびきを確認する。
医師や他のコメディカルは後頭下筋群の筋緊張を緩めたいと思っていても難しい所があるが、鍼治療ではダイレクトに刺激できる強みがある。そのため、しっかりとした評価と触診を行なって、患者さんの症状改善に役立てほしいとおっしゃっていました。
特別講演の後半では、2人ペアになって実際に触診をしてもらい、粕谷先生がそれぞれの参加者のもとに回り確認をしていました。最後に、3名の方がモデルとなり、中斜角筋、後頭下筋群の鍼通電を体験して頂きました。皆、真剣な眼差しで見学していました。その後、質疑応答では、さまざまな質問に粕谷先生が丁寧に答えてくださいました。
講演後は、養成施設内にある治療室や恒温恒湿室、検査室、セラピストセンターの見学を行ないました。
鍼灸学生など外部からの参加者は、当施設を知らないという方も少なからずおられたため、実際の治療室の中や診療実績などをじっくりと見学して頂きました。参加者からは、どのような研修をしているのか等、様々な質問がありました。
恒温恒湿室では実際にサーモグラフィーをつけ、緒方施設長やOBがじっくりと説明を行ないました。検査室では和田准教授がエコーや重心動揺計などの最新の機器や、以前行われていた研究などを説明していました。
セラピストセンターでは、現役の研修生が1日の業務内容等の説明や質問に答えていました。
そして総会の後は、粕谷先生や緒方施設長もご参加頂いての懇親会が行われました。多いに盛り上がる中、あっという間にお開きの時間となりました。
(文責: 名嘉山・矢野)
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